公共図書館においては、その主力商品である「本」がどうなっていくのかは、館の存亡にも関わる問題。それだけに、時流にながされるのではなく、自らがオールを漕ぐ必要もあるかと考える。そんな立場から「この先にある本のかたち」について考察してみたい。
■印刷・製本されている「本」 基本的にはこの数年で極端な変化はないと考えている。2009年時点で図書館や書店で扱う「本」のカタチはよほどの天変地異でもあって「紙」が無くならない限り続くと思われる。ただ価格は高くなるかな...諸外国の出版物のように、「ハードカバー」と「ペーパーバック」のように「単行本」と「文庫本」は存在し続けるが、価格が今の倍にはなる可能性がある。 ■電子出版による「本」 iPhoneのような携帯電話が他社からも販売されたり、ネットブックPCから電子ブックリーダー型PCへの移行にともなうハードウェア環境の整備、電子書籍フォーマットの国際標準化、App Storeのような販売環境の整備によって電子出版市場が突然脚光をあびる。特に「コミック」出版社はいきなり世界マーケットでの販売が加速。 ■この先にある本のかたち ひとつの出版物が、「ハードカバーの単行本」「ペーパーバックとしての文庫本」「電子出版」の3つの出版形態がメインとなる。それぞれの価格も、ハードカバーが高く、文庫本、電子出版の順で価格が下がる。現在の電子出版のように文庫本と同じ価格は維持できなくなる。イメージ的には1800円、600円、150円のような感じ。中でも電子出版は電子ブックリーダー毎の購入が強いられるのでこの程度の価格で成立し、単行本、文庫本はブックオフなどの中古本市場が今以上に大きくなる。電子出版物はブックオフなどの古書市場では取り扱うことはできない仕組みが組み込まれる。その分電子出版物の価格はこのくらいの金額にまで下がると思っている。 ■作家、編集者、出版社、取次、書店 従来の「本」の生産から流通の仕組みは、そう大きな変化は起こらない...たぶん。ただ、以下の2つの出版方法が台頭してくる感じはする。そこで食えるためのブレイクスルーをどこに見いだすかはかなり試行錯誤・暗中模索・トライ&エラーが必要かも。 ■電子出版 自ら原稿を書き、それをアップロードすることで電子出版物ができ、あわせてディストリビュートするインターネットサービスが現れている。それらがもう少しメジャーになるかもしれない。ライターもエディターも常に新しい才能を探しながら、「俺と組めばもっと売れるぜ〜」で音楽バンドのような『オーサー・ユニット』が生まれるような気がする。 ライターとエディタが組んだユニットと、電子出版作成サービス&ディストリビュート(課金も含む)の電子出版スタイル 例えばこんなサイト scribd ■自費出版 僕の知人で自宅に製本機能付きの印刷機を購入し、数十ページの冊子をじゃんじゃん出版しているNPOがある。また同人誌の世界などをみても、いわゆる大手出版社でなくても、中小の出版社以上にとてもおもしろい出版物を発行しているところがある。オンデマンド出版というイメージももちろんある。さらに自費出版に入ると思うが「写真共有サイト」による写真集出版も台頭してくる感じがある。すでに身近で野鳥のカメラ屋さんの写真集作成サービスを使って写真集を出版し、国会図書館に納本した事例を知っている。 ・Flickr: Do more! ・iPhoto ブック ■ベストセラーの虚像 ベストセラー自身は虚像でもなんでもない。しかしながら、多くの出版社は年間の出版数の中から何冊が採算がとれる重版ベースになるかは出してみないことにはわからない...という現状もある。100冊出版して1、2冊の増刷りをもって他の98冊の赤字を埋める....そんなギャンブルみたいなビジネスにも限界がある。テレビや新聞などへの広告費、ベストセラーにするためにかける経費だってばかにならないのだ。印刷・製本・流通コストにこの広告宣伝費がかかるから、現在のように著者印税が10%を切るような事態が当然のように思われているが、このあたりも考え直さなければならないように思うな。 それを解決するためには、読者側の見識も要求される。宣伝されているからという理由だけで本を選んだり、他人の評価を重視し自分の評価を低くみるのではなく、自分自身が良いと思ったら良い本なのだと、自身を持った読者たちも必要なんだと思うな。 ■そして図書館における「本」 特に公共図書館は、印刷・製本された図書を購入し、利用者に無償で提供(館内閲覧/館外貸出)するこの基本形はたぶん100年たっても変わらないような気がする。それはどちらかと言えば保存性/可搬性などを考慮しても電子出版には敵わないからだ。その上で、図書館的に「本」について考えなければいけないのが、電子出版以前の「本」と電種出版以後の「本」の取り扱いについてだ。 ●電子出版以前の「本」:これまでの図書館がおこなってきたことと同様に、蔵書管理を行い資料提供をおこなう資源である。ただし、限られた書架への保存を考えた場合、永久保存と廃棄処分の問題はつきまとう。そこで僕はひとつのアイデアを持っている。現行の著作権法の第31条を見ると (図書館等における複製) 第31条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。 1.図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を1人につき1部提供する場合 2.図書館資料の保存のため必要がある場合 3.他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合 ポイントは、第2項図書館資料の保存のため必要がある場合は営利を目的としなければ複製は可能である。ここでの複製とはコピー、マイクロフィルム化、そしてデジタル化も入る(と考えている)。すなわち、現物を廃棄せざるを得ない状況のもとであれば、保存のための必要性が生じデジタル化は合法となる。国会図書館におけるデジタル化は廃棄しない資料のデジタル化なので法改正が必要だったのではないだろうか。というわけで、保存機能の乏しい市町村レベルの公共図書館であれば、「現物を廃棄せざるを得ない状況下で保存のための必要性が生じた場合デジタル化は合法となる」のである。もちろん現物を廃棄せずにおこなえば違反であることは言うまでもない。 ●電子出版以降の「本」に関しては、購入時に印刷製本された本を購入すると同時に電子出版も割引価格で購入するというのはどうだろうか。「ハードカバー本/ペーパーバック本」+「電子出版本」を抱き合わせで購入するのだ。ハードカバー本はこれまでと同様に登録し排架する。一方電子出版本は、期間限定1コピーのみ閲覧可能なプラットフォーム(ストレージ)に保存し、そこからインターネット経由で貸出が可能となるようにする。すでに千代田区図書館などでも導入されているように、貸出期間が過ぎると利用者端末では閲覧できなくなり、ストレージ上のマスターデータは他の利用者に貸出が可能となるような...そんなシステムを構築すればいいだけだ。 ●図書館が電子ブックリーダーを有料で貸し出すことも可能であろう。電子ブックリーダーそのものは[図書館資料]ではないので、仮に有料にしても図書館法上は問題がない。場合によってはレンタルビデオのような延滞料を課すこともできる。その上で電子出版物を無料で貸し出すこともできる。貸出料や延滞料は電子ブックリーダーにかけるので、たぶん期日までに返却されるものと思われる。この場合電子ブックリーダーへの保険料として利用者登録時に保険料実費をいただくことは許される範囲ではかろうか(電子ブックリーダーを必要としない利用者登録は無料であることはいうまでもない)。 ●さらにひとつの可能性として公共図書館が電子出版の[販売店]になる可能性も否定できない。これは公共図書館がインターネットへの接続サービスを提供するアクセスポイントになる必要がある。利用者さんが自ら持ち込むパソコンやWiFi対応の電子ブックリーダーによって、図書館という場所でダウンロード購入もできる...という意味での[販売店]である。図書館としては一切儲からない...ようにもみえるのだが、ここはほれ、公共図書館のサイトが[アフィリエイト]にいそしみ、ライブラリアンをはじめみなで一所懸命に本を読み書評を書き、利用者さんに借りてもらうにしろ買ってもらうにしろ、[積極的に本を紹介するムード]をつくることができる。 アフィリエイトで溜まったポイントは、不明本や汚損や破損などの事故本の購入に当てることもできるであろう(何も定価で買わなくても良いのだし)。 久々に、長い投稿を書いてしまったが、基本は 1)そんなにびっくりするような変化は無いが、 2)電子出版が登場することで「本」のカタチがちょっと変化する。 3)あわせて図書館が新しい「本」とどう向き合おうとするか...という姿勢が問われる時代はまちがいなくやってくる。 というようなイメージを、持っている。 これが丸山高弘風「この先にある本のかたち」である。 (あくまでも、丸山高弘個人が勝手に妄想したものです) ※できましたら、コメントくださいね※
by maruyama_takahiro
| 2009-08-19 01:39
| ひとりごと...
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