個人消費者向けの「電子書籍」は、いっときのブームもおちつき、徐々に利用者を増やしている感じがある。なかでも高齢者ニーズが高いのは予想外の展開だったかもしれないが、大きな活字や書店まで出かける手間がない…という理由なら、さもありなん。である。
・電子書籍で変わる高齢者の読書(NHE NEWS: 2013/9.26) さて、一方で公共図書館における電子書籍の導入やダウンロード貸出サービスなどがいくつかの図書館で始まっているようだが、利用がいうほど伸びてないらしい。ダウンロード貸出ができる書籍の種類が少ないという理由もあるだろうが、実はそれ以上に深い理由がありそうに思えてならない。そのひとつとして、日本の公共図書館において「オーディオブック」の時代がまだ到来していない…ことなのだ。と、僕は考えている。電子書籍が普及する前にオーディオブックの普及がなければ、電子書籍の導入も貸出も…予想を大きく下回る結果になるであろう。それはすでに米国の図書館の同行から推測することができる。 米国の図書館あるいは書籍出版において、「オーディオブック」は確固たる地位を確立している。 小説や自伝などは、著者自身が5〜6時間かけて朗読しているオーディオブックなどもあるほど、著者や出版社側の力の入れようがハンパではない!これは書店販売でもそのようであるし、公共図書館などを通した貸出においても、オーディオブックは相応の地位を占めている。 米国図書館におけるオーディオブックの歴史は、ざっとこんな感じだ。 ・1980年代カセットテープによるオーディオブックの登場 SONY製のWalkmanなどのポータブルプレーヤーの登場で、家庭内だけでなく屋外での利用が生まれた。それまでにも図書館資料としてレコードを扱ってきた図書館がカセットテープを導入し、中でも朗読もののオーディオブックにも力をいれていた。 ・カセットテープからオーディオCDへの移行はあったものの、据置型プレーヤーや携帯型プレーヤの登場が一定の利用を担ってきていた。 ・そんな中で、デジタル技術の進歩により音楽CDをパソコンに取り込み再生するスタイルが登場。一時期などは、その音楽用デジタルフォーマットである mp3(エムピースリー)は著作権侵害の代名詞になるほど…の勢いであった。 ・mp3の登場により、1枚のメモリーカードに1冊分のオーディオブックを保存したメディアが登場。これは playaway社のbookpacksなどが有名 ( http://library.playaway.com/bookpack )。図書館ではこれらを書架に排架し、他の本と同様に貸出サービスを行っていた。 ・その後、Apple社のiPod (現 iPod Classic)の登場により、1つの携帯プレーヤに何冊分ものmp3オーディオブックを取り入れることができるようになってきた。 ・ほぼ時をおなじくして、それまでフロッピーディスクやCD-ROMによりデジタルメディアを販売していたOverDrive社が、インターネット上でのダウンロード提供をはじめる。これが図書館向けに大成功となる。2013年の現在でこそ、図書館向け電子書籍のダウンロードサービスといえばOverDrive社の名前は有名だが、当初はMP3によるオーディオブックが主力サービスだったのだ(当初からeBookもあったようだが、本格的普及は電子書籍端末であるSONY Readerの登場を待たなければならなかった)。 ここから、デジタルコンテンツのダウンロード貸出のシステムを開発し、サービスを提供していた OverDrive社は、その後音楽や映像などのデジタルコンテンツのダウンロードをはじる。そして2006年にSONYによる電子書籍端末SONY Readerの登場にあわせて、OverDrive社の図書館における電子書籍のダウンロード貸出サービスが本格的に始まるのである。※ちなみに Amazon kindleは2007年に発売される。 当初、SONY Reader の普及を進めるため、SONY Readerのサイトから、全国の電子書籍ダウンロード貸出ができる図書館の検索機能があった。お近くの図書館でこれだけの電子書籍がダウンロードして読めますよ(なのでSONY Readerをお買い求め下さい…と)。そしてその電子書籍のダウンロード貸出サイトが、まさに OverDrive社がほぼ独占的に担っていたのです。 単館での契約もありましたが、小さな図書館などでは、County(郡)の図書館協会などで一括契約し、小さな図書館も参加できるスタイルで普及していきます。 単館契約事例: San Francisco Public LibraryのOverDriveページ カウンティ契約事例: Wisonsin's Digital Library おおざっぱな流れで言えば、そんな感じです。まずは「オーディオブック」の普及があり、そのダウンロードシステムに乗っかるカタチで「電子書籍 eBook」のダウンロード貸出が始まったのです。 これに比べ、日本の図書館では「オーディオブック」の普及すらままならない状態のままで、「電子書籍」のダウンロード貸出をはじめたところで、普及するわけが無い!…というのが、僕の見立てです。 ということで、もしも日本国内における図書館での電子書籍貸出サービスを推進普及させたいのであれば、まずはその下地づくりのためにも「オーディオブック」の普及推進を計らなければならない。ということで…僕はいまオーディオブックの図書館での推進にむけて注目している会社がこちら。 ・株式会社オトバンク 図書館向けのサービスはありませんが、こうしたオーディオブック提供会社の存在こそが、実は日本の公共図書館いおける電子化/電子書籍の普及に大きな鍵を握っていたりするのです。 図書館関係者のみなさんなら、まずは自館のオーディオブックの所有数やタイトル/内容などをチェックし、購入できるオーディオブックはできる限り購入してみる…というところから、はじめてはどうでしょうか。 ※ちなみに…OverDrive社と提携している国内企業の メディアドゥ社の今後の動向は、注目していなければなりません。というのも、OcerDrive社の図書館向けページはすでに[日本語化]が完了しており、あとは日本語の電子書籍コンテンツが扱われるようになれば、すぐにでも日本国内でのサービスが開始できるところまで来ています。どのようなサービス内容/契約内容になるかは気になるところですが、いよいよ米国図書館シェアNo.1のOverDrive社が日本の図書館界に乗り込んでくるのも…時間の問題かもしれません。 #
by maruyama_takahiro
| 2013-09-29 01:08
| これからの図書館
昨日は、朝からちょっとあれこれあったものの、なんとか LEGO Education Canference 2012 に参加する機会を得ました。
http://www.legoeducation.jp/conference/ 一言「行って良かった〜!」 LEGO社主催のカンファレンスでしたので、まぁLEGOのオンパレード。まったくの初心者には、いきなりなじめるわけではない…という意味では、ちょっと気後れしたところもありましたが、予定したワークショップに参加するなり、いきなり脳みそ全開!な感じで、よく遊び、よく学ぶことができました。 そこで、気になったのは 『21世紀型スキル 考える力を伸ばす!』という言葉。そこから導き出される10の項目 ・批判的思考力(批評精神を持って考える力) ・問題解決能力 ・コミュニケーション力 ・コラボレーションの能力 ・自律的に学習する力 ・ICT(情報通信テクノロジー)を確実に扱うことのできる能力・スキル ・グローバルな認識と社会市民としての意識 ・金融・経済に対する教養 ・数学、科学、高額、言語や芸術といった分野への理解を深めること ・創造性 とまぁ、実にたくさん!の項目がありますね。 このお話しを伺っている最中から、僕には米国学校司書協会AASLが掲げている「21世紀の学習者のための標準」のことがきになっていました。 AASL Standards for the 21st-Century Learner http://www.ala.org/aasl/guidelinesandstandards/learningstandards/standards ここには、たくさん掲げられたスタンダードがあるのですが、それぞれは4つの言葉に集約されています。 Think : 考える Create: 創造する Share: 分かち合う Grow: 成長へ この英文の翻訳は、以下の図書に掲載されているので、お近くの図書館でご確認くださいませ。 「21世紀を生きる学習者のための活動基準(シリーズ 学習者のエンパワーメント 第1巻)」 http://www.j-sla.or.jp/books/cate7/cate7-000584.html いち早く日本の全国学校図書館協議会の手により訳書が出版されております。 さて… LEGO Education(シーモア・パパート氏の提唱するコンストラクショニズムにもとづいた教育方針)も、AASLのスタンダードも、どちらも『学校教育』の現場でのものなのです。 それを、公共図書館向けにちょいとばかりアレンジしながら、タイトルにも示した『21世紀型公共図書館の姿』を考え、できるところからでも実践していきたい。それが、いまの大きな目標になってきています。 まだまだ、ぜんぜんよくわからないところが多いので、まずは先進事例である図書館の活動などを参考にしながら、「図書館でゲームをする日」をやってみたり、断裁機にドキュメントスキャナを入れてみたり、匿名の方からAmazon Kindleをいただいたり、iPadを買ってみたり、A1サイズの大判プリンタとA1サイズのイメージスキャナを入れてみたり、ハンモックをつくるしてみたり、「レゴの日」だの「フィットネス」だの、考えられまた実施できる範囲でのことには、果敢に(?)チャレンジしてみたいなぁ〜と、思っていたりするのです。 館長のこの暴走には、まだ日本では誰も教えてくれない(くれそうもない)、21世紀型公共図書館について、あれやこれや考えて取り組んでいるわけなんですね。 1961年生まれの僕は今年で51。子どもたちも高校生やら中学生やら。彼女らの将来に対しても責任があるわけですが、どうも子どもたちに明るい未来を残すことは、かなり難しい状況にあると、すなおもそう思っています。今の大人たちの力では解決できない課題を、次の世代、またその次の世代に解決できないまま受け継がせてしまうことは、あきらかなんです。 日本の人口推移においても、30年のうちに1億人を下回り、5千万人になり、3千万人、2千万人とこの先100年ほどで、日本の人口は半減どころか、1/5を下回るという予測もあるくらい。経済規模も縮小、高齢者介護などの医療費負担、人手の入らない廃屋や廃墟のような建造物、限界集落どころか、限界市町村、限界都道府県…かろうじて道州制で生き残ったとしても、後を継ぐための日本人は一気に縮小していきます。 逆に、世界規模の人口は現在の70億人から、80億、90億…そして、100億人を突破する日がくることも予測されています。今後、大規模な自然災害や、世界中が巻き込まれる戦争や紛争が起きないともいいきれません。 そんな時代を生きる…生き抜かなければならない子どもたちの世代、孫たちの世代に対して、いまの大人ができそうなことといえば、彼ら彼女らに「答え」を示す事ではないし、もちろん「正解」などを今の大人たちが持っている訳も無い。せいぜいできることは、困ったとこに解決できる力を今のうちからトレーニングをつませてあげること…くらいなのです。 そう考えると、僕ら大人たちは、子どもたちに「正解のある問題を出して要領よく解答できるスキル」を身につけさせることがよいのか、それとも「答えに至る無数の考え方があることを学び、そこからよりよい考え方を選択できるスキル」を身につけてもらうことがよいのか…明白なんじゃないかな。…と。 LEGO Education のワークショップの中で、こういう問題がありました。 2+2= 普通の数学で考えれば、正解は4しかありません。今の子どもたちの学習のありかたは、多少これより複雑な設問であっても、「正解」にいかに短時間で要領よくたどりつけるか。答案用紙に書けるか。というスキルをみにつけるような学習方法が多いのです。これに対して 4= を考える。四則演算でも良い、平方根でも、さらに複雑な方程式でもいい。4=になる考え方は無数にあります。インストラクターの方はこうも行っていました。「犬の足の数」「お父さんとおかあさんとぼくと妹で4人」とか。 そんな思考力、問題解決能力…いわゆる『21世紀を生き抜くためのスキル』 学校教育においても、大学受験という大目標があるので、そう簡単に正解のあるテストを解答するスキル…から変更することは難しいのが現状です。だからこそ、学校外にある公共図書館が、ちょっとだけ…ほんのちょっとだけでも、そういう21世紀型スキルを体験できる場になることは、必要なのではないか…なぁ、って思っているわけなのです。 これまでにも、「市民の図書館」「図書館の望ましい基準」「2005年の図書館像」「これからの図書館」等々のビジョンがありましたが、もはや高度経済成長の時代でもなく、よい大学を出たからといってよい就職先があるわけでもなく、就職できないから大学院へ…という時間が許される時代もそう長くは続かないでしょう。また運良くよい就職先に巡り会えても数ヶ月で退職する人たちもいるし、あるいはその大企業がいつどんな状況になるかわかりません。21世紀は、少なくとも21世紀の日本は、戦後から高度経済成長をへて、途中石油ショックはあったものの、バブル崩壊まで一気に成長した経済が、今度も続く世の中ではないのです。そういう時代に相応しい図書館像から、これからの21世紀に求められる図書館の姿に変えていく必要があると、考えているのです。 どこまでできるか、わかりませんが… そんな「21世紀型公共図書館」を求めて、もうしばらくはこの仕事に取り組みたいと思っていたりするのです。 (長文だなぁ〜) #
by maruyama_takahiro
| 2012-06-25 23:40
| これからの図書館
ちょっと長いので、twitterでもなく、facebookでもなく、ブログにて書いてみたい。
先日、山中湖の友人を介して、すっごく聡明な方と出会った。 まぁ、たまたま僕がその友人に新しいイベントについて相談したい事があってふらっとでかけたのだが、たまたま彼を取材したいという方々がいらっしゃって…まぁ、おじゃまむしを覚悟で居させていただいた。 すごい、今の若者はほんとにすごい。そんなことを感じた夜だった。 さて、本題。 友人とその彼は、アーティストでアートシーンでも活躍していた時期があって、いわゆるDJとかインスタレーションとか、そんな表現をしている話を聞いていた。そんな話題のなかで、ふと「図書館」とか「本」とか「電子書籍」とか…という話になり、何か図書館という場を使ってイベントができないかなぁ…みたいな話題で盛り上がった。で、このイベントプログラムはかなりおもしろくなりそうで、もう少し現実味を帯びてきたら、山中湖情報創造館という場をつかって実現したいなぁ…と思っているので、そのネタはまた後日あらためて。 今回書きたかったのは、題名にもある「STORIEMIX(ストーリミックス)」という言葉を思いついたから。 音楽シーンには、表現方法のひとつに、RIMIX(リミックス)というものがある。 すでに出来上がった音楽を、ミキシングし直し(つまり混ぜ合わせて)、新しい音楽を作り出す手法だ。まぁ書籍の世界ではそんなことを言い出せば、やれ著作権だ、やれ同一性保持だ…みたいな話が出てくるのだろうが、まぁひとつここは脳内企画演習とおもってください。 最初は、ブックリストあるいはカーリルのレシピみたいな感じで、「本を組み合わせて何かを表現できないか」というところからスタート。でもそれは実にたいへんで、それぞれの本を読破しなければならない。そういう読書課題もよいのだろうが、ここはもうちょっと楽しみでいきたい。 そこでふと、音楽のRIMIXに加え、オムニバス映画の手法を思いついた。 オムニバス映画は、複数のストーリーが断片的に繋ぎ合わされて一本の映画になっている。 例えば、 ストーリA、ストーリーB、ストーリーCがあったとして、映画的な編集では A1-B1-C1-A2-B2-C2-A3-B3-C3-AB4(ABの物語が合流)-C4 -ABC5(ABCの物語が合流) みたいな感じ。これを「本」でできないだろうか。あるいは「物語」でできないだろうか。と、そんなことを考えている。 ほんとに例えばだが、「雪国」のとある章の次に、「蜘蛛の糸」のとある章をつなげ、そのつぎに「夢十話」のとある一節をつなぎあわせ…、その繋ぎ方の中で、新しい価値(おもしろみ)を見つけられないだろうか…と。最初はBOOKRIMIX(ブックリミックス)と考えたんだけど、実はもっと「物語」に注目して、STORY + RIMIX =STORIEMIX (ストーリミックス)という考え方になってきたわけです。 さすがにこれを印刷書籍で実現するには、とっても難しい。自炊じゃないが本そのものを解体し、再構築しなければならない。 そこで「電子書籍」の出番。電子化された書籍…というよりも、電子化された物語の、そこかしこを切貼りしながら(RIMIXしながら)、新しい感性…そこから感じとって欲しい表現を作り出す。 むしろ、〈それができなきゃ電子書籍とは言えないね!〉みたいなことまで言っちゃったりして。 …と、ここまで書いていて…実は… 松岡正剛氏の「千夜千冊」って、そういう構造になってないかい? という思いも出てきたし、引用ということで考えれば、そもそも学術論文の書き方って、他人の論文を使いながら自分の論考を表現する…ということは、これもひとつのRIMIX(?)なんて再定義することもできちゃうのかなぁ? そう考えると、いわゆる学術論文って「Knownledge RIMIX」って言えないかなぁ? なんてね。 そういうわけで、ここではひとまず、こんな言葉を世に出してみたい。 電子書籍が本物になるために… STORIEMIX (ストーリミックス) そんなコンセプトって、どう? #
by maruyama_takahiro
| 2012-05-15 01:03
| 情報デザイン
まずは…こちらのリンク先をごらんくださいませ。
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/ 1950年から10年刻みで2050年までの日本における年齢別人口の推移です。 これはいま、僕の思考の基礎になっているインフォグラフィックスなのです。 2050年はそう遠い未来ではなく、僕の娘たちが今の僕の年齢になる時代。僕は生きているか死んでいるか…まぁ、そんなあたり。 日本はこれから急速に[縮小(シュリンク)]していきます。 戦後の団塊の世代が生まれ、大人になるにつれ、学生運動を起こしたり、社会の価値観を変えていったように、これからは[縮小する日本]が、この国の価値観の変化にとても重要な役割を果たすのではないか…と、思っているわけです。 一方で、地球上の人類は70億人を超え、さらに増え続けるでしょうが、残念ながら日本は…日本民族は、このまま減少の一途をたどる運命にありそうです。 僕はいま、公共図書館という場所で働いているのですが、こうした[情報]や[知識]それに基づく[物語]を、きちんと利用者のみなさんに、提供できているのだろうか? …と、本当に不安でしかたがありません。このインフォグラフィックスも、すでに様々なカタチで統計データとして公開され提供されているにも関わらず、この動くグラフを見るまでは、僕自身もこんなに深刻な課題であることを把握できませんでした。 図書館は「聞かれなければ答えない」という受け身の姿勢が基本ではあるのですが…、どうやら、そうも言っていられない時代になってしまったようです。 地球温暖化、自然災害、放射能汚染…それぞれ重要な社会的課題ではありますが、どれか単独で考えるよりも、複合/マルチで考える必要がある。そういう素養を身につけることができる場所として、やはり「図書館」を定義し直さなければならない…と、思い始めているのです。 #
by maruyama_takahiro
| 2012-04-20 00:49
| 情報デザイン
ひさびさのブログです。最近twitterやfacebookばかり…。 さて、すでに9年前に出版された菅谷明子氏の「未来をつくる図書館」。この本のインパクトがいまでもある。出版されて9年、取材等を考えれば10年以上前のニューヨーク公共図書館のあり様は、いまでも日本の図書館業界で働く方々や図書館を利用されている方々に、多くの衝撃を与え続けている。 なぜか? それはこの9年もの間においても、日本の図書館がニューヨーク公共図書館の様々な図書館サービスを[普通の図書館のサービス]とは捉えず、業界のほとんどの方は「日本の図書館は日本の図書館、米国の図書館は米国の図書館です。よく「〜では」を使われる先生方が講演で引用されますが…。」という。簡単にいえば、この10年経ったいまでも日本の図書館は様変わりすることは、ほとんどなかったのだ。 さらに、それはなぜか? 一言で言えば、「図書館業界の危機感」に対する認識が、まだ十分ではない…からだ。直営ならば人件費も図書館の予算もほぼ100%が公費(税金支出)だ。減らされ続けていても図書館が自ら資金調達をする事例は、ほとんどない。また、公費支出の削減とサービスの向上をねらった指定管理者制度の導入はこの2003年の施行以来,増え続けているのだが…これもまた図書館という施設のなせるわざなのか、指定管理料のほぼ100%が公費支出である。さらに悪い事に、民間団体が指定管理者になっているにも関わらず、自主事業による収入を認めていない事例も見受けられる…まったくもって制度に対する誤解も甚だしいのだが、現状そのような協定で営利企業/非営利団体を問わず図書館における資金調達の未知を わざわざ塞いだ 制度導入がまかり通っている。 菅谷明子氏の「未来をつくる図書館」を読み、図書館を変えていこうとする取り組みをしようとしても、そうした図書館財政状況では、なかなか進展しない…というのも、無理からぬことなのだ。 そして実は、もう一冊の「図書館はだれのものか(正)」には、「未来をつくる図書館」をある意味で補完する内容になっている。なぜ米国の公共図書館は、そのような取り組みができるのか。なぜインターネット時代にふさわしい図書館サービスを提供することが可能なのか。「未来を〜」が利用者から見たサービスのあり方を伝えているのなら、「図書館はだれの〜」はその舞台裏と舞台裏を支えている仕組みを書いている。 中でも注目すべきなのは、それぞれの公共図書館には「図書館支援財団」があり、税金のよる運営費の不足を補うシステムがあったり、「図書館友の会」が図書館ブランドを商品化し販売し、そのブランド使用料(ライセンス料)を図書館に支払うというモデルで、財政面をバックアップしているというのだ。日本でも図書館友の会は、廃棄本を無料でゆずりうけ、バザーを行い、その売上げを図書館に寄附する…というモデルもあるにはあるのだが決して十分な金額ではない。 というわけで… 図書館ごとに…というわけにはいかないだろうが、せめて都道府県単位で、あるいは市町村単位での、市民による「図書館支援機構」づくりが必要なのではないだろうか。それは財団なのか社団なのか、あるいはNPOなのか…それとも基金なのか。そのスタイルはそれぞれの単位で決めればよいだろうが、公費だけでは縮小する一方の図書館を、市民が支えてゆくモデルを今のうちに作っておかないと、本当にダメになってしまうのは時間の問題だと思う。 スポーツチームのモデルを図書館に置き換えて考えてもいい。 コートでプレイする選手だけがチームではない。監督、マネージャー、そのバックヤードで広報や事務処理やファンサービスやそれこそ実に様々なスタッフがいて、はじめて一人の選手あるいは出場チームが試合で全力をだして戦うことができる。もちろんスタンドからのサポータの応援もある。サポータ以外の観客もいる。 図書館でプレイする職員だけではなく、そのバックヤードにどれだけの後ろ支えを持つ事ができるか。それがとても大切になり、公務員による直営では難しいモデルも、指定管理者なら可能ではないか。あるいは本当に、ニューヨーク公共図書館のように財団法人による「私立公共図書館」のモデルが実現するのではないか…と、かなり真剣に考えている。 当然ながら、こんなことをは現在の日本の図書館情報学(特に図書館経営論)では、まったく教えてはくれない。いつまでたっても公共図書館は100%税金で運営され、館長はその歳入(税金)からできるだけたくさんの予算を取れるかが腕のみせどころ…みたいな教育ばかりだ。そろそろ視点をかえて、NPOなどの非営利団体の経営モデルを公共図書館にも取り入れるべきだと思うし、少なくともNPOによる指定管理者図書館は、そのあたりのことをかなり強く意識して図書館経営に取り組んでいる。 というわけで、菅谷明子氏の「未来をつくる図書館」と松林正己氏の「図書館はだれのものか(正)」はぜひ、セットで読んでいただきたい。 ※松林正己氏の「図書館はだれのものか(続)」では、働くスタッフの専門性について言及している。さらに興味を持った方は、続編も読んでみるとよいだろう。 #
by maruyama_takahiro
| 2012-01-19 23:49
| これからの図書館
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